健康ニュース
2023.06.22
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アニサキスの食中毒が増加中 ~ティーペック健康ニュース
近年、意外な食中毒が増加しているのをご存じでしょうか。それは寄生虫であるアニサキスによる食中毒です。アニサキスは魚介類に寄生する寄生虫で、魚介類を生で食べることでアニサキス食中毒を発症することがあります。アニサキスが原因の食中毒は年間を通じて発生しており、件数で見ると令和元年から3年まででは食中毒全体の約40%を占めています。アニサキス食中毒の症状や予防法に加えて、増加の背景などについて解説します。
アニサキスが胃や腸の粘膜に突き刺さり、強い腹痛を起こす
アニサキスは体長が約2~3センチメートル程度の糸状の寄生虫です。目に見えるサイズですから、魚の内臓などをよく観察すると発見できます。食中毒の原因となるのはサバが最も多くなっていますが、サバ以外にサンマ、サケ、アジ、タラ、ヒラメ、カツオ、ホッケなど多くの魚のほか、イカにも寄生しており、寄生した魚介類を生で食べた場合に食中毒を起こすことがあります。
アニサキスに寄生された魚介類を刺し身などの生で食べ、生きたアニサキスが胃や腸内に入ると、胃や腸の粘膜からアニサキスが体内に侵入しようとすることで強い腹痛、吐き気、嘔吐を起こします。多くの場合は胃の症状だけで済みますが、ひどい場合には腸の粘膜に穴が開き、腹膜炎や腸閉塞を起こしてしまうことも。胃で起こる症状は食後数時間から1日ぐらいの間に起こりますが、腸で起こる症状の場合は食後十数時間から数日後に起こることがあります。
また、アニサキスは発疹やじんましんなどのアレルギー反応を引き起こすことが分かっています。過去にアニサキスを摂取してアレルギー反応が起きたことがある人では、アナフィラキシーショックを起こして呼吸困難などの重篤な症状を起こすことがあります。アニサキスアレルギーの場合は、たとえアニサキスが死んでいてもアレルギー反応が生じます。
体内のアニサキスを薬で殺すことは難しいため、治療は内視鏡を使って胃の中のアニサキスを物理的に取り除くことが中心となります。アニサキスを除去することができれば、すぐに痛みなどの症状は改善します。一方で、腸の症状の場合は内視鏡で取り除くことは難しいため、痛み止めなどで症状を緩和しつつ、アニサキスが自然に死滅して症状が改善するのを待つことになります。必要であれば手術を行うこともあります。アニサキスは人間の体内では成虫になれないため、通常は数日程度で死んでしまいます。
予防のためには加熱・冷凍で死滅させるのが確実
アニサキスは寄生虫ですから、食中毒を防ぐためにはアニサキスを殺してしまうか、体内に入る前に取り除く必要があります。確実なのはしっかりと加熱または冷凍してアニサキスを死滅させてしまうこと。加熱調理は魚の中心部の温度を60℃以上で1分間、冷凍はマイナス20℃で24時間以上行うことでアニサキスは死滅します。家庭で使われている通常の冷凍庫では、マイナス20℃の設定になっていないことがあるため、注意しましょう。
どうしても生で食べる場合は、アニサキスは主に魚の内臓に寄生しており、鮮度の低下や時間の経過に従って身(筋肉)の部分に移動することがあるため、新鮮なうちにできるだけ早く内臓を取り除きましょう。生のままで内臓を食べてはいけません。刺し身にする際は表面や断面をよく観察し、発見して除去します。自宅で調理するなら、アニサキスが身についているのを発見したときは刺し身にこだわらず、加熱調理することをお勧めします。
通常の調理で使う濃度の酢、塩、しょうゆなど調味料や、ワサビ、ニンニク、ショウガなどの薬味では、アニサキスを殺すことはできません。実際にシメサバや押し寿司で食中毒になった事例があります。よくかんで食べることでアニサキスをかみ殺してリスクを軽減できるという考え方もありますが、アニサキスは魚の身のどこに潜んでいるか分かりませんし、糸のような形状をしているため、確実な対策ではありません。加熱・冷凍を徹底することが予防のためには重要です。
アニサキス増加の背景
それではなぜ、近年になってアニサキスによる食中毒の増加が指摘されるようになったのでしょうか。実は2012年に食品衛生法が改正され、食中毒の統計でそれまで「その他」に分類されていたアニサキスが原因物質として届け出が義務付けられるようになりました。その結果、アニサキスによる食中毒が認知されるようになったためで、近年になって急増したわけではなく、実際には以前とそれほど変わっていないといわれています。一方で、魚介類などの生鮮食品を低温のまま配送する物流システムが発達し、日本全国で生の魚介類が手に入るようになったことも一因ではないかと指摘されています。遠隔地の港で水揚げされた魚であっても生のまま食卓に届けることが可能となり、昔は焼き魚にしなければならなかった魚であっても刺し身で食べる機会が増えたことから、アニサキスによる食中毒を発症しやすくなったということです。
また、アニサキスの最終宿主は主にクジラやイルカなどの海洋哺乳類であることから、クジラの頭数が増加していることで結果としてアニサキスの数が増えているのでないかという指摘もあります。
最後に
物流システムの発達で遠隔地の魚を生で食べられるようになったことは素晴らしいことです。しかし、それだけにアニサキスの食中毒には十分注意したいものです。幸い、アニサキスは注意深く観察すれば目で見て発見することができます。自分で魚を捌く際は、十分に注意してアニサキスを除去してください。また、アニサキスを発見したら生の刺し身にこだわらずに、焼魚で楽しみましょう。