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人前で過度に緊張する社会不安症へ対処する~ティーペック健康ニュース

 人前で話すとき、緊張して心臓がドキドキしたり冷や汗をかいたりすることは、多かれ少なかれ誰しもが経験しているものです。ただし、そうした緊張状態が過度になり、不安や恐怖の感情を伴って日常生活に支障を来す状態であれば、「社会不安症」などの心の病気が考えられます。

社会不安症とは?

 社会不安症は、かつては対人恐怖症、あがり症、赤面症などと呼ばれていました。症状はそれらの名称から、ある程度はイメージできるのではないでしょうか。社会不安症の人は思考力や判断力の低下は少なく、本人も周囲も心の病気とは気付きにくいのも特徴です。

*社会不安症は「社交不安症」とも呼ばれます。社会不安障害という言い方もありますが、現在は「不安障害」から「不安症」への名称変更が推進されています。

どんな症状?

 人から注目を集めるような人前での発表、食事、目上の人や上司との会話などの場面で、失敗や恥ずかしい思いをするのではないかといった恐怖や不安を抱き、過度な赤面、手足の震え、動悸、目まい、発汗(冷や汗)、上ずった声、頭の中が真っ白になるなどの症状が出現します。

 さらに、同様の症状が「また起こってしまうのではないか」と考えることで常に恐怖や不安が誘発され、同じような場面を過度に回避してしまいます。そうした強い恐怖や不安、回避行動が長く(6ヵ月以上)続く場合は、社会不安症が疑われます。症状が強くなると、仕事など社会活動に参加できなくなり、人と会うのが怖くて外出できなくなる場合もあります。

社会不安症の人は少なくない

 WHO(世界保健機関)の調査によれば、日本の限られた地域についてのものですが、社会不安症の有病率は0.8%という報告があります。これは1年間でおおむね100人に1人が発症する割合となります。しかし、日本社会はかつてよりも社会生活で自分の意見を主張することが求められる機会が増えており、現在の社会不安症の有病率は実際には何倍にも増加しているのではないかとの見方があります。

 アメリカで行われた大規模な調査による研究報告では、アメリカの成人の有病率は6.8%で、1年間でおおむね100人に7人が発症する割合です。前述の日本におけるWHOの調査結果0.8%と比べると、日米の文化の差による影響があるとしても、やはり日本の数値は少なめで実態を反映していないかもしれません。アメリカでは生涯有病率は 12.1%で、これは生涯のうちに10人に1人は社会不安症にかかることを意味しています。

性格ではなく社会不安症として治療する

 社会不安症を発症するのは、自分で自分の価値を認められなかったり、自信が持てなかったりすることの多い思春期の頃が多いといわれます。その場合、進学・就職・結婚などの人生の大事な局面が控えていることを考えると、「性格だから仕方がない」と受け入れて放置せずに、治療を試みる方が人生の選択肢を増やすことにつながります。社会不安症は、発症において内向的な性格などが関係しているケ―スがあるかもしれませんが、きちんと医療機関を受診して社会不安症として治療することで症状が軽減され、結果的に生き方を変えることにつながる心の病気です。

 もっとも、恐怖や不安の出現が公衆の面前で話したりするときに限定される場合には、普段は活発で社交的な人が多く、生活に特別な支障がなければ治療をする必要はないともいわれます。

どんな治療がある?

 社会不安症には、薬物療法、精神療法による治療があります。基本的には、抗不安薬やSSRI(選択的セロトニン阻害薬)、β阻害薬などの薬によってつらい症状をコントロールしつつ、苦手な社交的状況に少しずつチャレンジし、精神療法によって恐怖や不安との付き合い方を身に付ける訓練を重ねます。治療にはある程度の時間や積み重ねが必要です。性格、生活環境、重症度などに合わせ、焦ることなく治療を続けていくのがポイントとされます。

 治療は、担当医に相談してその指示に従うことになりますが、参考として代表的な精神療法の考え方を記しておきます。

認知行動療法     強い恐怖や不安を生み出している極端な認知(物事の捉え方や考え方)の在り方を、少しずつバランスよくしていく精神療法です。「いつも失敗する」「絶対に無理」など歪んだ一方的な考え方から、「できるときもあれば、できないときもある」のような現実的な考え方になれるように変えていきます。
森田療法「恐怖や不安を排除する」のではなく、恐怖や不安、緊張などの体の反応、その裏側にある自分の欲望までも「あるがまま」に受け入れ、「あるがままでも行動はできる」ことを繰り返し体感することで、症状を安定させる方法です。恐怖や不安を感じたまま、それでも人前での発表など行うべきことが行えるようにしていきます。

暴露療法
(エクスポージャー)       
恐怖や不安を感じる状況にあえて自分をさらし、慣れていく方法です。不安や恐怖を感じる状況を避けたままでは、状況は改善せず、かえって恐怖や不安が強まってしまうかもしれません。そこで治療する医師や臨床心理士と一緒に不安や恐怖を感じる場面に段階的にチャレンジして、慣れていきます。
早期発見、早期対処が大切

 体の病気の大半がそうであるように、社会不安症を含めた心の病気もその大半は誰もがかかる可能性があります。そして、体の病気と同じように、早めに適切な治療や社会的なサポートを受けるほど回復しやすいことが分かっています。早期発見、早期対処のための前提として、心の病気を自分に関係ある問題として意識しておくことはとても大切です。

最後に

 社会不安症は治療によって克服できる可能性が高い心の病気です。社会で活躍している人には、以前はこの病気で苦しんでいたという人も結構いらっしゃいます。人前で話したり、人と接したりするとき、人からどう見られるかといったことに強い恐怖や不安を覚え、生きづらいなどと感じているとしたら、ぜひ専門相談窓口や医療機関に相談してみてください。

原稿・社会保険研究所ⓒ

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