健康ニュース
2012.08.10
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本当は怖い糖尿病 ~ティーペック健康ニュース
国民病ともいわれる糖尿病は、一度発症すると、食事療法、運動療法、薬物療法などによる血糖値をコントロールするための治療が生涯必要とされる慢性疾患です。初期には自覚症状がほとんどないため、気がついたときには体中のさまざまな臓器に重大な障害を引き起こしている怖い病気でもあります。
平成19年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病発症の可能性を否定できない人」を合わせた数は約2,210万人と推計され、なんと成人の約5人に1人が糖尿病の可能性があるという調査結果が示されています。
糖尿病の患者数は、近年激増しており、今後も増加することが予想されています。
糖尿病は血糖値が下がらなくなる病気
食べ物に含まれる糖質や脂肪は胃腸でブドウ糖(糖分)に分解され、血液と一緒に全身に運ばれます。血流に乗って体中に運ばれたブドウ糖は、エネルギー源として全身の細胞に取り込まれます。このとき血液中にあるブドウ糖を細胞に取り込む手助けをするのが、すい臓から分泌される「インスリン」というホルモンです。
インスリンの働きが正常であれば、血液中のブドウ糖はせっせと細胞に取り込まれるため、その濃度は食後に上昇したのち、時間が経つにつれて正常値に戻ります。しかし、インスリンの量が欠乏したり作用が低下したりすると、ブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなり、血液中のブドウ糖の濃度がなかなか下がらなくなります。この血液中のブドウ糖の濃度を血糖値といいます。このようにして、血糖値が適正な範囲を超えて上昇(これを高血糖という)し、慢性的に血糖値が高い状態を糖尿病といいます。
高血糖の状態での自覚症状はほとんどありません。のどが渇く、トイレが近くなる、体がだるい、食べてもやせるなどの糖尿病特有の症状が出たときには、すでに重症に陥っている可能性があるのです。
怖い糖尿病の「合併症」
血液中のブドウ糖の濃度が高い(高血糖)状態だと、血液はドロドロで固まりやすく、流れにくくなります。この状態が長期間続くと体中の細い血管がもろくなり、次々に詰まったり破れたりして、しだいにさまざまな障害が現れます。これが糖尿病の合併症です。
合併症のなかでも、特に「糖尿病網膜症」「糖尿病性腎症」「糖尿病性神経障害」は糖尿病特有の病気で、「糖尿病の三大合併症」と呼ばれます。いずれも、ある程度進行するまで自覚症状がほとんどなく、何らかの異常に気がついたときには重症または手遅れということが少なくありません。合併症を発症してしまうと治癒が難しく、病気の進行を抑えることが主な治療目的となってしまうことも多いといわれています。これが「糖尿病の怖さは合併症にある」といわれるゆえんです。
障害が眼球内の網膜に無数に張り巡らされた細かい血管に及ぶと「糖尿病網膜症」を引き起こします。「視力が低下した」「物がかすんで見える」などといった眼の不調に気づいたときには失明寸前という場合もあります。日本における大人の失明の原因は緑内障に次いで第2位、年間約3,000人が糖尿病網膜症が原因で失明しています。治療せず放置してしまうと5~10年で発症することがわかっています。
また、腎臓の細かい血管が集まってできている糸球体に障害が及ぶと「糖尿病性腎症」を引き起こします。だるさ、むくみ、乏尿、吐き気などの自覚症状が現れるころには、腎機能はかなり低下しており、人工透析導入一歩手前ということもまれではありません。人工透析は、一度導入したら生涯続けなければなりません。糖尿病性腎症が原因で人工透析を始める患者は、毎年、1万数千人もいます。人工透析の治療費は年間約500万~700万円もかかるといわれています。
高血糖の状態は体の隅々に広がる末梢神経にも及び、「糖尿病性神経障害」を引き起こします。発症頻度が高く、手足の末端のしびれや痛み、感覚鈍麻などの症状が比較的早期から現れます。症状が進行すると全身の神経の働きが鈍り、痛みの感覚が低下するため、けがややけどなどに気づかず、その結果、壊疽になり足などを切断しなければならないという場合もあります。
糖尿病は「動脈硬化」の進行を加速させるため、細い血管の障害ばかりではなく、太い血管にも障害が起こりやすくなります。その結果発症する「脳梗塞」や「心筋梗塞・狭心症」、「閉塞性動脈硬化症」などの病気を「大血管症」といいます。大血管症は、いずれも発症すると死に至る危険性が高く、一命をとりとめても深刻な後遺症が残ることがあります。糖尿病の人はそうでない人に比べ、脳梗塞や心筋梗塞の発症率が約2~4倍、下肢閉塞性動脈硬化症の発症率が約3~10倍と、発症率が高くなることがわかっています。
糖尿病では「歯周病」も起こりやすく、歯周病が悪化すると糖尿病のコントロールが悪化するという悪循環も見られます。
「最悪の場合、死に至ることもある」という認識を!
「健康日本21推進フォーラム」の調査(2011年実施)によると、健康診断で血糖値が高く「要治療」と診断されたにもかかわらず医療機関等を受診していない人が2割強いて、受診はしても治療を受けていない人を合わせると約4割、30歳代だけをみると約6割に上る人が治療を受けていないことが明らかになりました。
その理由として、①糖尿病がある程度進行するまでは痛みなどの自覚症状に乏しく、治療しないで放置していても日常生活に支障がないため受診の必要性を感じていない、②糖尿病についての知識が不足していて、糖尿病が人工透析や失明の原因となるような怖い合併症を引き起こす病気であり、最悪の場合、死に至ることもあるという認識が薄い、などが考えられます。糖尿病という病気は、糖尿病についての正しい基礎知識を身につけることが必要とされ、受診と治療の必要性をしっかりと認識することが重要といえます。
また、糖尿病治療については、医師、看護師、管理栄養士、理学療法士、薬剤師など専門家による指導を受け、正しい治療を続けることが大切です。糖尿病専門医にかかっている患者には治療中断者が少ないといわれています。健診などで「要治療」の判定を受けた場合は、糖尿病専門医の受診をお勧めします。
糖尿病は、食べすぎ、肥満(特に内臓脂肪型肥満=メタボリックシンドローム)、多飲酒、運動不足、ストレスなどの生活習慣に起因するところが多い生活習慣病です。ですから、「糖尿病になりそうな危険因子はいっぱいもっているのだけど、まだ発症していない」という人は、いますぐ、食生活の改善と適度な運動を開始して肥満を解消すること、さらに、ストレスをためないことを心がけて、糖尿病の発症を未然に防ぎましょう。
万が一、糖尿病と診断された場合は、合併症の発症を未然に防ぐことをまず第一に考えましょう。そのためには、医師の指示に従い受診と治療を継続し、良好な血糖値コントロールが大切です。さらに、検査等を定期的に行い、合併症をできるだけ早期に発見し、早期に治療を開始することも欠かせません。
糖尿病は一度発症してしまうと、完全に治癒することはありません。しかし、しっかりとした自己管理と治療がきちんと継続されることで、健康な人と変わらない日常生活を生涯送ることができるのです。
<参考資料>
『これでわかる糖尿病の予防と対策』(東京都区西部糖尿病医療連携検討会編、社会保険研究所発行) ほか