健康ニュース
2006.04.10
健康ニュース
アルハラと急性アルコール中毒について ~ティーペック健康ニュース
監修:救急救命東京研修所
教授 名倉 節
春、4月といえば、新入学、新入社など出会いの季節ですね。お花見や歓送迎会などもあり、飲酒の機会も多いことと思います。普段、酒席では「無礼講」が多いようですが、その中にも「してはいけないこと」があります。普段のあなたはどうでしょうか。今回は「アルハラ」と「急性アルコール中毒」についてお話しましょう。
「アルハラ」とは
アルコール・ハラスメント、つまり飲酒にまつわる人権侵害のことを指します。次にその内容を挙げてみましょう。
- 1.飲酒の強要:上下関係や集団によるはやしたて・罰ゲームなどで心理的な圧力をかけ、「飲まざるをえない」「断りきれない」状況に追い込むこと。
- 2.イッキ飲ませ:早飲み競争や、一息で飲み下すような飲ませ方をさせること。
- 3.意図的な酔いつぶし:酔いつぶすことを意図して飲み会を行うこと。傷害行為にもあたります。
- 4.飲めない人への配慮を欠くこと:宴会に酒類以外の飲み物を用意しなかったり、飲めないことをからかったり侮辱すること。本人の意向を無視して飲酒をすすめることもこれにあたります。
- 5.酔ったうえでの迷惑行為:酔ってからむこと、悪ふざけ、暴言、暴力、セクハラなどのひんしゅく行為のこと。
こうして例をあげると、何気なくやってしまっているようなことも含まれているのではないでしょうか。このアルハラの被害の中で最も深刻なものが、急性アルコール中毒の発症と言えるでしょう
「急性アルコール中毒」とは
いわゆるアルコール中毒がアルコールの「依存症」なのに対し、急性アルコール中毒は、身体の機能を侵す「中毒症」です。短時間に大量のアルコールを摂取したり、体内でのアルコールの処理ができにくい体質の人がアルコールを摂取すると起こります。アルコールの分解産物であるアセトアルデヒドの毒性によって、ひどい二日酔い状態や血圧低下が起こったり、脳の中枢がアルコールそのものの作用によって麻痺すると、呼吸が止まったりして死にいたる可能性もある、非常に危険なものです。
酔いつぶれてしまったら
酔いつぶれた状態が、すべて急性アルコール中毒をおこしているというわけではありません。酔いつぶれてしまった人に対して、周囲の人が注意することを挙げてみましょう。
- 1.酔いつぶれた人を一人にしない:窒息や転落・転倒、水死、凍死、交通事故など、どんな事故が起こるか分かりません。「寝ているから大丈夫だろう」と安易に考えるのは大変危険です。必ず酔っていない人が傍にいるようにしましょう。特に気温の低い時には、低体温症から凍死しやすくなります。
- 2.嘔吐の時は横向きで自然に:抱き起こして無理に吐かせることは、吐物が気道をふさぐ可能性があり大変危険です。また、仰向けのままでも、酩酊している状態では口の中の異物を吐き出すことができず窒息の危険があります。必ず横向きで寝かせ、自然に吐かせるようにしましょう。
こんなときは救急車を
耳元で大声で名前を呼んでも、つねったり身体をゆすったりしても、全く反応しない。また、「息苦しそう」「全身が冷たい」「大いびきをかいている」などの症状があったら、急性アルコール中毒の可能性があります。急性アルコール中毒は、救急処置を必要とする危険な状態です。何かおかしいと感じたら、ためらわず救急車を呼びましょう。
酒量の目安とは
厚生労働省はアルコールの節度ある量として、1日20gを唱えています。日本酒1合に含まれるアルコールは22gで、1単位と呼ばれます。次に日本酒1合と同程度のアルコール量の例を挙げてみます。
ビール(アルコール 5%) | 500ml | ワイン(アルコール12%) | 小グラス2杯 |
ウィスキー(アルコール43%) | ダブル1杯 | チューハイ(アルコール7%) | 370ml |
焼酎(アルコール35%) | コップ半分弱 |
1単位は体重60kgの成人が3時間で代謝できると言われる量です。
アルコールは血液中に吸収され、肝臓を経て、最終的には筋肉で分解されます。そのため筋肉の少ない女性や老人、体重の少ない人は上の目安よりやや長めの時間が必要になります。また、体質的にアルコールに弱い人も、代謝するまで長い時間がかかりますので注意が必要です。
自分の体質を知るには
アルコールパッチテストという方法があります。アルコールを含ませたシールを皮膚に貼り、はがした後の反応を見る検査です。赤く反応が出た場合はアルコールに弱い体質であると言えます。その他、病院での血液検査の際に、皮膚の消毒で赤く反応が出たことがあるという方は、アルコールに弱い体質の可能性がありますので、注意が必要です。日本人は約45%がアルコールに弱い体質であると言われています。
終わりに
1日1合までの飲酒は、心筋梗塞などの心疾患の罹患率が低くなると言われています。しかし1日2合を超える量では、逆に心疾患罹患率が増えると言われています。また、アルコールに弱い体質の人が無理をして飲み続けると、食道がんの発生率が20倍以上になるとも言われています。楽しい雰囲気こそ「宴会」に欠かせないものですね。適量を守り、事故なく楽しく宴会シーズンを過ごしましょう。
<参考文献>
今日の治療方針2005 医学書院
新臨床内科学 第7版 医学書院