健康ニュース
2005.11.10
健康ニュース
食物アレルギー ~ティーペック健康ニュース
監修:順天堂大学医学部附属順天堂医院
総合診療科非常勤 小林 暁子
秋は食べ物のおいしい季節です。サンマや秋ナス、柿など旬の食材が並ぶ売り場を歩くだけで、楽しい気分になる人も多いのではないでしょうか。ところが、この時期の食欲を素直に喜べない「食物アレルギー」を持つ人が、ここ30年の間に増え続けています。現在、日本では3人に1人が何らかのアレルギーを持っていると言われていますが、食物アレルギーも小児から成人まで幅広く見られる病気で、3歳未満の約10%、成人の約2%の人にあると考えられています。今回は、初めて日本小児科学会がまとめた診療指針などもふまえてお話したいと思います。
食物アレルギーとは?
私たちの体は、ウイルスや細菌などの異物が入ると、それらを追い出そうとする免疫と呼ばれる仕組みを持っています。ところが免疫が過剰に働くと、体にとって必要なものや無害なものまで排除しようとしてしまいます。これをアレルギーと言いますが、その排除の対象が食物である場合を食物アレルギーと呼びます。
症状
人により様々な症状が現れます。
皮膚・粘膜症状:かゆみ、じんま疹、発赤、目の充血、まぶたのむくみ、涙が流れる
消化器症状:吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、血便
呼吸器症状:口の粘膜やのどのかゆみ、違和感(イガイガした感じ)、むくみ、くしゃみ、鼻水、鼻がつまる、咳、ゼーゼーする
全身性症状(アナフィラキシー症状):頻脈(脈が速くなる)、血圧低下、意識障害
これらの症状の頻度は、皮膚・粘膜症状が最も多く、次いで消化器症状、呼吸器症状、全身性症状の順であると報告されています。多くの場合、原因となる食物を食べた後1時間以内に症状が出ますが、2日経ってから出ることもあります。また、アナフィラキシーは全身性の急性アレルギー反応で、急激な症状悪化から死に至る可能性もあります。食事直後の運動で誘発されることもあり、食物アレルギーの中で約12%がアナフィラキシーを起こすと言われています。
原因となる食べ物
アレルギーの原因となる物質をアレルゲンと呼びますが、食物アレルギーの三大アレルゲンとして知られるのが、卵、牛乳、小麦です。また、そばやピーナッツは重篤な症状が出やすい食品です。他にも、エビ、大豆、キウイ、サバなど多様です。
原因のさぐり方
治療は、まず原因となる食物探しから始まります。食べた直後にはっきりとした症状が出たり、珍しいものを食べたりした後に症状が出たりするなど、わかりやすい場合もありますが、日常的に食べているものや、食べた量が非常に少ない場合など、わかりにくいこともしばしばあります。そのため、次のような手順が必要です。
- 自己判断で原因を確定することは禁物ですが、医療機関へかかる前に、いつ何を食べて、何時間後にどんな症状が出たかを記録した食事日誌をつけておくと、診察の際とても役に立ちます。
- 医師が、家族のアレルギーや生活の細かい事柄について聞くこと(問診)で、アレルギーを起こしやすい体質かどうか、食べ物と症状が関係あるかどうかなどを推測します。
- 問診で推定された食べ物に対する抗体がどの程度あるかを血液検査で調べます。
- 最後に、原因と思われる食べ物を除去して症状が改善し、再び食べて症状が出れば、その食べ物が原因と確定されます。
日常生活での注意点
原因となる食べ物を除去することはもちろんですが、その他にも日常生活の中で気をつけていただきたいことがあります。
- 体調を整える:病状は体調の悪いときに起こりやすいものです。また、ストレスが引き金となることもあります。日ごろから規則正しい生活を心がけ、疲れやストレスを溜め込まないようにしましょう。
- バランスのよい食事をとる:食物アレルギーが急増した原因の一つに食生活の欧米化が挙げられています。また体に良いと言われる食品でもそればかりを多量に食べ続けると、今まで問題のなかった人でも急にアレルギー症状を起こすことがあります。旬のものや新鮮なもの、食品添加物のできるだけ少ないものを選び、それらをバランスよく食べるよう心がけてください。
- 食後の運動に注意する:アナフィラキシー症状は、食後に激しい運動をした場合に起こることがよくあります。食物でアレルギー症状を起こしたことのある人は、食後2時間程度は激しい運動を控えましょう。
- 食品の成分を確かめる:平成14年4月以降、重いアレルギー症状を起こしやすい「卵、乳製品、小麦、そば、落花生」の5品目を含む加工食品の原材料と添加物については、表示が義務づけられました。購入するときは、表示をチェックする癖をつけるとよいでしょう。
毎日の食事にかかわるため、本人にとっても、あるいは食事を作る家族にとっても心理的な負担が大きいと思います。ただ、ここ数年で、アレルギー表示制度がスタートしたり、診療指針が示されたりと、少しずつこの病気を取り巻く環境は整ってきています。同じ経験を持つ人たちとの情報交換なども、病気と気長に取り組む手助けとなるのではないでしょうか。
<参考文献>
「最新 食物アレルギー」 永井書店
「小児科診療 VOL68 No8」 診断と治療社
「小児科診療 VOL67 No7」 診断と治療社
「アレルギー疾患指導用テキスト食物アレルギー」 新企画出版