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人事・労務

グループ社員の健康を守るうえでもっとも着実かつ効果的な施策である「法令遵守」を中心に、今後も取り組みを進める

人事・労務

株式会社バンダイナムコビジネスアーク

企業名

株式会社バンダイナムコビジネスアーク

URL

https://www.bandainamco-ba.co.jp/

業種

人事・労務

インタビュー 健康推進室(保健師)紙屋亜希子さん、
人事部 健康推進室 マネジャー 鈴木裕光さん 

日本を代表するエンターテインメント企業グループであるバンダイナムコグループ。
そのグループ各社の管理部門機能を担っているのがバンダイナムコビジネスアーク社である。
各社から受託する業務は多岐にわたるが、社員の健康管理も重要な業務の一つ。その取り組み内容を聞いた。

(左)人事部 健康推進室(保健師)紙屋亜希子さん
(右) 人事部 健康推進室 マネジャー 鈴木裕光さん
20社・7,000人の健康推進を受託する
まず、御社の沿革からお聞かせいただけますか?

鈴木 旧バンダイと旧ナムコが経営統合したのは2005年ですが、08年にはグループ各社の管理業務を、持株会社である株式会社バンダイナムコホールディングス内の「グループ管理本部」で一括して担うこととしました。さらに15年には、この「グループ管理本部」機能を当社に集約し現在に至っています。 独立した機能会社である当社は、プロフェッショナル集団として、グループ管理戦略や管理方針を策定し、グループ経営基盤を強化するとともに、グループ各社の管理業務の標準化・効率化を推進しているところです。

御社のなかで、健康推進室はどういう位置づけになっているのですか。

鈴木:
当社には受託する業務に応じて人事部、総務部、経理財務部、情報システム部があります。健康推進室は人事部の1チームとして、非連結を含めた国内グループ会社43社中20社・およそ7、000人の健康推進業務を担当しています。 受託していない23社についても、産業医の選任や衛生委員会の開催など適切な安全衛生管理が行われているかどうかを定期的に確認し、グループ全体としてのコンプライアンスおよびガバナンスの確保に努めています。

グループ各社を“六大業務”でサポート
では、健康推進室の業務の具体的な内容を教えてください。

鈴木:
「健康診断の実施とそのフォロー」「休職者・復職者の支援」「ストレスチェックの実施」の“三大業務”に、「衛生委員会の運営フォロー」「長時間勤務者への対応」「健康増進施策」を加えた“六大業務”となります。 事務方のスタッフ7人、および産業医4人、保健師5人が、それぞれ担当する会社を決め、これらの業務を行っています。

たとえば健康診断は、どのように進めているのですか。

鈴木:
受診勧奨は、スタッフが毎年4月、それぞれが担当する各社において、通達・社内ポータルを利用して、その年度の健診の予約・受診期限について案内をします。その後も毎月、予約・受診状況を把握し、なかなか予約・受診が進まない社員に対しては、本人や上司に直接連絡するなどして「法令遵守」への協力を強く促すようにしています。3カ月に1回、各社状況を経営層に報告もしています。こうした地道な活動により、各社の受診率はほぼ100%となっています。

紙屋:
健診後のフォローアップは、私たち保健師と産業医がペアで、担当会社の健診結果をチェックします。私は3社を担当していますが、その社員総数約1,100人分のデータを、産業医の指示の下、有所見者を中心に「どのような状態なのか」をチェックしてまとめます。 結果は各社に報告し、その後のフォローアップは各社の産業医の先生の考えに基づき行われます。分析結果は毎年度、各社の衛生委員会や経営層にも報告しています。

休職者・復職者の支援について、教えてください。

紙屋:
休職に入ったときから、保健師がその間の過ごし方などを指導します。また2週間に1回程度、メールや電話で状況確認もします。 復職が近づいたら、産業医面談を繰り返し行います。生活記録も提出してもらい、通勤練習も経たうえで復職の可否が判断されます。復職後も当分の間は、出張や残業の禁止など就業規制をかけ、定期的に産業医・保健師が面談もします。

鈴木:
リソースが限られる小規模な会社では、こうしたきめ細かな支援は難しいため、当社に委託することは大きなメリットになります。実際、復職支援だけをスポット的に受託する場合もあります。 ただ復職支援は、各社の就業規則や勤怠データの確認、復職後の異動措置など人事労務全体にかかわるため、人事部の業務全体を受託するというのが、本来の形ではあります。

低い受検率では意味がないストレスチェックの集団分析
ストレスチェックについては、法制化の前から実施されていると聞きました。

鈴木:
2010年から主に社員本人に自分のストレスに気づいてもらい、メンタル不調を未然に防ぐため実施しています。360度バリューサーベイ(複数の評価者が対象者を評価する手法)と同時期に実施し、現場の実情を把握するツールとしても活用しています。 ストレスチェックでは、ストレス要因だけでなく、ワークエンゲイジメントに着目しています。そのため法制化の際は、ワークエンゲイジメントや職場のいきいき度を把握できる新職業性ストレス簡易調査票を選定しました。同時にストレスチェックのパートナーをティーペックさんに変えたのですが、その理由として、新職業性ストレス簡易調査票を選択できることに加え、システムの使いやすさと充実した機能などが挙げられます。ティーペックさんのストレスチェックを選定する企業は年々増加し、今年は31社となりました。

ストレスチェックの集団分析結果は、各社にどのようにフィードバックしていますか。

鈴木:
役員や管理職に報告します。好事例を管理職からヒアリングして水平展開する社もあります。また高ストレス部署の管理職から個別に状況を聞き、産業医と健康推進室が職場環境改善のアドバイスも行います。規模や業務内容、人事制度、組織風土も異なる各社に対し、健康推進室が個別具体的なアドバイスをすることは率直に言って難しいのですが、明確な数値として各部署の傾向を指摘し、気づきを促すことができる──。これがストレスチェックの大きなメリットと考えています。

受検率はどのくらいですか。

鈴木:
ほぼ100%です。本人だけでなく管理職にも未受検者への勧奨を依頼し、かなり粘り強く受検を働きかけています。それでも受検していない方には、電話やメールだけでなく、健康推進室のスタッフが会社に出向き、直接、受検を勧めることすらあります。それもこれも、集団分析の精度を上げるためです。受検率が低いままで集団分析をしても意味がありません。置かれている現状を少しでも正確に把握するために、受検率向上のための働きかけは、今後も必須だと考えています。

働き方改革関連法施行に合わせ各種施策を展開
“三大業務”以外で、特筆すべき取り組みがあれば、教えてください。

鈴木:
長時間労働対策ですね。16年からグループ各社人事部による「長時間労働対策会議」を開催し、17年には弊社人事部内に「長時間労働対策室」を設置。グループ共通の取り組みとして、22時以降の残業を原則禁止するとともに、単月の時間外勤務が75時間超の従業員は産業医面接を必須としました。「月80時間以上で希望者のみ面接」という、労働安全衛生法よりも厳しい基準です。長時間労働対策室は現在、「ワークシフト推進室」と名前を変え、グループ全社の時間外労働の状況などをモニタリングしています。またこの4月からは、働き方改革関連法施行に合わせ、残業の上限時間を月45時間(年6回まで月75時間)までとし、年5日の年次有給休暇の取得、勤務間インターバル10時間の確保を、グループ共通のルールとしています。

たとえばクリエーターの方は残業が多いというイメージがあるのですが、いかがですか。

鈴木:
確かに以前は、時間を問わずゲーム開発に当たるといったことも珍しくありませんでした。しかも、そんな労働環境が苦ではなく、むしろそれが楽しいという社員もいたと思います。しかしこうした状況を放置すると、結局、本人の健康を害し、過労死にもつながりかねません。そこで長時間労働対策に取り組んだわけです。

それで残業は減りましたか。

紙屋:
数年前と比べれば、劇的に減りました。私は産業医面接のアレンジもしているのですが、担当する3社・11,000人のうち、対象者は月に1人出るか出ないかで、ゼロという月も珍しくありません。

鈴木:
個々の社員だけでなく、無理な納期設定は最初からしないなど、各社のマネジメント側の意識も、この2~3年でずいぶん変わってきたと思います。

健康増進施策は、どのように企画・実施しているのですか。

紙屋:
健康推進室で企画し各社に提案・実施する施策(P11・囲み記事参照)と、各社の衛生委員会で独自に企画・実施する施策の2つに大別されます。当室で企画する場合は、健診結果から得られた疾病の傾向や、「健康アンケート」の結果をベースにテーマを考えます。健康アンケートとは、社員の生活習慣上の課題を把握するために年1回実施されている調査で、たとえば、アンケートで運動不足の社員が多いという結果が出たら、運動関連のイベントを企画し、その社の衛生委員会に提案する、という形です。

鈴木:
ただ、中には参加者がなかなか集まらない施策もあります。どのようなテーマのイベントを開催すれば、広く参加してくれるのか、正直、よくわからないところです。また、本当に参加してほしい(健康に課題のある)方に限って参加してくれないという傾向も見られます。会社には安全配慮義務がある一方、社員には自己保健義務がある。にもかかわらず、健康への意識やリテラシーはなかなか高まってくれません。ならば、ある程度の強制力をもって健康施策に参加させることが時には必要なのではないかとも思っています。そういった意味で最近は、(強制力のある)階層別研修等に健康関連のテーマを予め一定時間組み込んでもらうようにしています。

紙屋:
そうですね。各社に施策を提案する際、その趣旨の説明とともに、「ある程度、強制力を持たせてください」というお願いもしています。昨年から、私の担当する3社でメタボ研修会を始めたのですが、メタボ該当者と予備群の方は参加必須とした結果、対象者のほぼ全数、102人ものご参加をいただきました。しかも、うち3割の方が継続指導を希望され、実際に減量に成功した方もいらっしゃいました。

鈴木:
現在は、グループ各社に対し、新人研修にメンタルのセルフケアを、マネジャー層の研修にラインケアの講義を、また一部の会社では、保健師による新入社員全員面談などもしています。ハラスメント研修も好評ですね。

最後に、グループ社員の健康を増進するうえでの、今後の抱負をお聞かせください。

紙屋:
職域の保健師は、働く人がファーストコンタクトをとる身近な相談窓口だと思っています。今後も、こうした役割を十分に果たしていきたいですね。そして働く人が仕事を通じて人生を豊かにしていけるために、頼りになる伴走者でありたいと、常に心がけています。

鈴木さんはいかがでしょう。たとえば、グループ各社でのホワイト500の取得は考えていますか。

鈴木:
それよりも、定期健診やストレスチェックの実施とフォロー、衛生委員会の定期的な開催といった労働法令を遵守すること、つまり、われわれ健康推進室が掲げる前述した〝六大業務〟を遂行することが、社員の健康を守るうえで着実かつ効果的な施策だと考えます。ホワイト500はその延長線上にあるに過ぎません。もちろん健康経営は会社と社員にとって重要な経営指標であることは間違いないので、グループ内でホワイト500を取得したいという会社があれば、できる限りのサポートをしていきたいと思っています。ただその一方で、ホワイト500の認定取得自体が目的化しては意味が薄いとも考えています。幸い、ホールディングスや当社の経営陣は、グループ社員の健康に対し高い関心を寄せ、われわれとの距離も近い関係にあります。今後もこうした経営陣とともに、法令遵守という地道な施策を中心に据え取り組みを続けていきたいですね。

ありがとうございました。

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