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ティーペック健康ニュース

第198号 2009/05/11  
監修:救急救命東京研修所
教授 名倉 節

『糖尿病の検査』

 近年「糖尿病」の患者数が増加を続けており、増加のペースは急ピッチで加速しています。厚生労働省の調査によると、糖尿病が強く疑われる人や可能性を否定できない「予備軍」が合わせて2,210万人と推計されることが「2007年 国民健康・栄養調査」でわかりました。前年より340万人増え、10年前の1.6倍に達したとも言われています。中でも「糖尿病が強く疑われる人」のうち、約4割がほとんど治療を受けていない実情も判明しました。
 糖尿病は自覚症状がないことが多く、健診で見つかることの多い疾患です。現在、糖尿病の診断に使われている「血糖値」は食事や運動の影響を受けやすいため、より適切な判断ができる「ヘモグロビンA1c」が診断基準に導入されています。今回はその「ヘモグロビンA1c」についてお話します。
 糖尿病とは
食物から取り入れたブドウ糖は血液によって全身に運ばれ、エネルギーとして利用されます。糖尿病は血液中のブドウ糖である「血糖」の濃度を示す「血糖値」が高い状態が続く病気です。血糖値は主に膵臓の「β細胞」から分泌される「インスリン」というホルモンで調整されます。インスリンの作用によってブドウ糖は肝臓や筋肉、脂肪組織に取り込まれ、消費されたり、蓄積されたりします。しかし、インスリンの分泌が不十分だったり、作用が低下したりすると、血液中のブドウ糖が十分に取り込まれなくなり、血糖値が異常に高い状態が続きます。高血糖が続くと、全身の血管が傷つけられ、様々な病気が引き起こされます。高血糖により動脈硬化が進むと、「心筋梗塞」や「脳卒中」など、命に関わる病気が起こりやすくなります。神経や目(網膜)、腎臓に血液を供給する細い血管が傷つけられて起こる「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」は糖尿病に特有するもので、“三大合併症”と呼ばれ、いずれも生活の質を低下させます。
 糖尿病検査について
糖尿病は進行しないと症状が現れないので、血液検査で血糖値を調べる必要があります。ただし、1回の血液検査だけでは診断はできません。原則として一次検査で「糖尿病型」と判定された人が、別の日に行った二次検査で「糖尿病型」と再確認されれば、「糖尿病」と診断されることになります。日本糖尿病学会の基準によれば、現時点では空腹時血糖を調べた場合、血糖値が126mg/dl以上なら「糖尿病型」、110mg/dl未満なら「正常型」、どちらにも属さない場合は「境界型」と判定されます。ただし、この空腹時血糖値は検査前数日の食事や運動の影響で大きく変動するため、より適正な診断ができない可能性があります。このため、今後診断基準に、過去1〜2ヶ月の平均的な血糖の状態を示す「ヘモグロビンA1c(HbA1c)」を導入するか検討しています。また、糖尿病とは診断されないものの、そのまま放置すれば糖尿病になる可能性が高い、いわゆる“糖尿病予備軍”(一般に、血糖値が「境界型」と判定される人)は、空腹時の血糖値はそれほど高くなくても食後の血糖値が異常に高くなる「食後高血糖」がよくみられ、血糖値検査だけではわからないケースでした。今後、ヘモグロビンA1cを併せて調べることで、空腹時血糖だけでは検査をすり抜けてしまう例もほぼ発見できるようになります。
 ヘモグロビンA1cとは
赤血球中の「ヘモグロビン」のなかには、ブドウ糖が結合したものがあり、「グリコヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)」と呼ばれます。「ヘモグロビンA1c(HbA1c)」はその一種で、一日の血糖値の平均が高いほど増えることから、“血糖コントロールの指標”とされています。血液検査では、ヘモグロビン中にヘモグロビンA1cが何%あるかを測定します。いったんヘモグロビンに結合したブドウ糖は120日ほどと言われる赤血球の寿命が尽きるまで付いているので、その割合を調べることで、検査前1〜2ヶ月の血糖値の状態がわかります。もともと糖尿病の人の血糖コントロール状態をみるために行われた検査ですが、血糖値のように検査直前の食事の影響を受けることなく、平均的な状態がわかるため、より適切な判断ができることになります。ただし、「溶血性貧血」など、赤血球の寿命が短くなる病気があるような場合は、高血糖状態が続いてもヘモグロビンA1cの値が低いことがあります。血糖値と併せて調べれば、糖尿病の診断がつくことがありますが、ヘモグロビンA1cだけでは糖尿病の診断はできません。
 ヘモグロビンA1cの基準値
健康な人のヘモグロビンA1cの基準値は、一般に4.3〜5.8%程度です。日本糖尿病学会の診断基準では、血糖値が「糖尿病型」で、同時に調べたヘモグロビンA1cが6.5%以上であれば、一度の検査で糖尿病と診断してよいとされています。ただし、ヘモグロビンA1c値は糖尿病の人と健康な人の重なりが大きく、6.5%より低いからと言って、糖尿病でないと判断する根拠にはなりません。すでに糖尿病とわかっている人では、ヘモグロビンA1cが高いのは血糖コントロールがうまくいっていないことを意味します。
 糖尿病診断について
糖尿病は、二度以上の検査を行なって診断するのが原則ですから、「二次検査が必要」と言われた人は、検査を受けないと糖尿病かどうかわかりません。一次検査で空腹時血糖を調べた人で「糖尿病型」「境界型」と判定された場合に、二次検査が必要になります。血糖値とヘモグロビンA1cを同時に調べた人では、血糖値が「糖尿病型」でヘモグロビンA1cも6.5%以上あれば、一度の検査で「糖尿病」と診断できます。また、空腹時血糖が正常型であっても、ヘモグロビンA1cが5.9%以上であれば二次検査を行う必要があります。二次検査では、「ブドウ糖負荷試験」がよく行われます。この検査は、空腹時に75gのブドウ糖が溶けた甘い液体を飲み、飲む直前(空腹時)、30分後、1時間後、1時間半後、2時間後などに採血して、血糖値を調べます。通常、血中インスリンも併せて測定します。この検査で、空腹時で126mg/dl以上、またはブドウ糖負荷後2時間で200mg/dl以上であれば「糖尿病型」と判定されます。空腹時が110mg/dl未満でブドウ糖負荷後2時間が140mg/dl未満が「正常型」、どちらにも属さない場合が「境界型」です。時間を追って測定することで、血糖の変動パターンもわかります。また、血中インスリン値からはインスリンの分泌量や分泌パターンがわかります。ブドウ糖負荷試験は、糖代謝の状態を詳しく調べることができ、基本的にはこの検査を行えば糖尿病の診断がつけられます。
 血糖コントロールの目安
糖尿病と診断された方は血糖コントロールを行うことで、合併症の発症や進行を防ぎ、生活の質を落とすことなく、健康な人と同じような生活ができることを目指します。ヘモグロビンA1cは、糖尿病治療の血糖コントロールの指標としても利用されています。過去1〜2ヶ月間の平均的な血糖の状態を知ることができるので、たとえ空腹時血糖が低くてもヘモグロビンA1cが高ければ、血糖コントロールがうまくいっていないとわかります。ヘモグロビンA1c値を6.5%未満に維持できれば、合併症の発症や進行を防ぐことができると言われています。
HbA1c値 血糖コントロールの状態
4.3〜5.8% 基準値(ほぼ正常)
5.8%未満
5.8〜6.5%
6.6〜6.9% 可(生活習慣の改善が必要)
7.0〜7.9% 可(治療法の変更を考慮)
8.0%以上 不可
 糖尿病は病気の生産工場とも言われます。病気がかなり進行しないと自覚症状がなく、早期発見には血液検査が欠かせません。定期的に検査を受け、自身の状態を把握することは大切なことです。また、血糖検査で「糖尿病型」と判定されたら、必ず医療機関で再検査を受けましょう。
◇   ◇   ◇
<参考文献>
糖尿病治療ガイド(文光堂)
別冊NHKきょうの健康 糖尿病(NHK出版)
検査の手引き 改訂第5版(小学館)
新臨床内科学 第9版(医学書院)
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