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ティーペック健康ニュース

第175号 2007/6/11  

監修:救急救命東京研修所
教授 名倉 節

『麻疹(はしか)』

 2006年秋以降、首都圏の中学・高校・大学等での麻疹の集団発生及び散発例の発生が続いており、休校の措置をとる学校が相次いでいます。例年3〜5月の春先が流行期とされているため、終息に向かうものとは思われますが、今回は麻疹について、また、何故乳幼児ではなく、10〜20代の若者を中心に麻疹が流行したのか、その要因も含めてお話ししたいと思います。
 麻疹とは
麻疹は、麻疹ウイルスの感染によって起こる小児期の代表的な感染症のひとつとされ、これまで成人がかかるケースはまれと考えられてきました。ところが近年10〜20代の罹患者が増えています。麻疹は感染力が非常に強く、免疫の無い人が感染を受けるとほぼ100%発症するといわれ、重症な場合には肺炎や脳炎を合併する事もあります。
 流行について
過去に麻疹の予防接種率が低かった頃、患者は乳幼児が殆どでした。大きな流行があると免疫を獲得する人が増えてしばらく流行はおさまりますが、乳幼児を中心に免疫のない人が増えてくると、また大規模な流行が発生するという繰り返しでした。しかし、今回の流行は15歳以上の発症が過去最高になっており、既に予防接種を受けたという人も半数以上含まれているようです。麻疹は一旦免疫が出来れば再びかかることはありませんが、予防接種で十分な免疫が得られなかったり、免疫が弱くなっていることが指摘されています。その原因として、中高年の方は麻疹の流行を何度も経験していますが、ウイルスと接触する機会の減った若者は感染の機会が減り、予防接種を受けても十分な抗体が得られないことがあげられるようです。また、MMRワクチン(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹)の副反応が多発した時期は、予防接種が控えられた事も今回の発症に影響していることが考えられます。
 感染経路及び感染力
麻疹ウイルスが患者の咳やくしゃみで飛び散り、健康者の鼻やのどから侵入して感染します。体内で増殖したウイルスは発病の1〜2日前から体外に散布され始め、発疹の出た後、4日目くらいまで続きます。この1週間くらいの間が感染力のある時期です。麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、麻疹患者一人から免疫を持っていない人15〜20人くらいに感染させる力があるといわれています。
 症状
1. 麻疹ウイルスに感染の機会があってから10日間くらいで症状が出現します。
2. 前駆期(カタル期)3〜5日
  咳や鼻水など風邪のような症状と発熱が3〜4日続き、眼脂や結膜の充血などの眼症状も出現します。発疹出現の1〜2日前には頬の粘膜に1mm径の白色小斑点(コプリック斑)が出現しますが、発疹出現後2日程度で消失します。乳幼児では腹痛・下痢を伴うことが多いようです。
3. 発疹期 4〜5日
  カタル期の発熱が1℃程度下降した後、再び39℃以上の高熱が出て、こまかい赤い発疹が顔や首・胸のあたりに現れ、全身に広がっていきます。
4. 回復期(発疹消退期)
  発病後7〜8日目頃から熱が下がりだし、全身状態、体力も回復してきます。発疹は消退し、色素沈着して黒ずんできますが、やがて皮膚がこまかく裂けて白く粉をふいたようになります。皮膚は1ヶ月前後に色素沈着がとれて普通の状態に戻ります。麻疹は体力の消耗が激しい病気ですので、通常に経過した場合でも完全に全身状態が回復するには1ヶ月程度かかるといわれています。
以上が典型的な麻疹の症状ですが、最近は一度ワクチン接種を受けた人の中から、典型的ではない、比較的軽い症状の麻疹が報告されています。修飾麻疹といわれ、潜伏期間は通常より長く、発疹も少なめで麻疹と診断するのが難しい場合があります。
 合併症
麻疹は全身の免疫力を低下させるため、気管支炎・中耳炎・肺炎・まれに脳炎などの合併症を発症することがあります。
 診断
従来は臨床症状や流行の状況から診断する場合が多かったのですが、確定診断は抗体検査を行います。しかし、今シーズンは麻疹の流行に伴い医療機関でも検査キットの不足が生じています。製薬会社でも生産が追いつかない状況が発生しているようですので、抗体検査を希望される場合には事前に医療機関への問合せをされる事をお勧めします。
 治療と家庭看護
麻疹ウイルスに有効な薬はなく、対症療法が中心になります。高熱の期間が長いので体力を消耗するため、水分を十分にとって安静にします。口の中があれるので口当たりの良い消化の良いものを少しずつとって回復を待ちます。
 予防
麻疹は一度かかると終生免疫が獲得できると考えられていますが、予防をするためには予防接種を受けることが唯一の方法です。ただ、予防接種を受けても、その時の体調でうまく免疫が出来ない場合や、時間がたつと抗体が薄れる事があります。そのため、2006年の4月以降、予防接種法による定期接種として、1歳時と小学校就学前1年間、麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)の2回接種が施行されています。既に欧米では1980年代から2回接種を施行し、麻疹を排除することに成功しました。過去に予防接種を1回受けた人は10年くらいで効果が弱まる事も考えられ、周囲に麻疹を発症した人がいる場合は再接種をお勧めします。定期接種以外は原則自費となり、費用は医療機関によって異なりますが6000円前後かかる事が多いようです。また、予防接種を受けていない人が麻疹患者に接触した場合でも、接触して3日以内に予防接種を受けると発症を抑えるか、かかっても症状が軽く済むとされています。
 妊婦の麻疹感染について
妊娠中に麻疹に感染した場合、流早産の可能性を高くする事が報告されています。麻疹ワクチンは生ワクチンのため、妊娠中の人が接種する事は出来ませんので、妊娠前に予防接種を済ませるようにしましょう。既に妊娠している人は麻疹に対する抗体価を検査して、抗体が無いか低い場合はなるべく人混みには行かない様にしましょう。外出する場合もマスクをするなど注意が必要です。

 過去に予防接種を受けた人は典型的な麻疹の症状が出ない場合があります。国立感染症研究所では、周囲で麻疹が発生したら毎朝体温を測り、37.5℃以上を越える様であれば学校を休んで受診をするように呼びかけています。麻疹はだれもがかかる軽い病気と思われがちですが、症状の重い病気です。麻疹が流行してから慌てるのではなく、事前に対策をとっておく事が大切です。
◇   ◇   ◇
<参考文献>
東京都          感染症マニュアル
財団法人日本公衆衛生学会 感染症予防必携
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