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ティーペック健康ニュース

第172号 2007/3/12  

監修:社会福祉士 看護師
井口 陽子

『認知症について理解しよう』

 はじめに
 認知症は誰にでも起こりうる脳の病気によるもので、85歳以上では4人に1人はその症状があるといわれています。日本では現在約169万人の患者がいますが、今後20年で倍増することが予測されています。2004年12月、「痴呆」から「認知症」へと呼称が変更されましたが、この背景には「痴呆」は侮蔑的で、高齢者の尊厳を欠く表現であること、その実態を正確に表していないこと、早期発見・早期診断等の支障となっていること、それが認知症対策の取り組みへの障害となっていることなどの現状があります。
 認知症とは?
 脳は、私たちの殆どあらゆる活動をコントロールしている司令塔です。それが、うまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。認知症とは、色々な原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしてしまったために様々な障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヶ月以上継続)を指します。認知症を引き起こす病気のうち、もっとも一般的なのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー小体病などがこの「変性疾患」にあたります。続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果、その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまったりする脳血管性認知症です。
 認知症の症状〜中核症状と周辺症状
 脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状が、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下など中核症状と呼ばれるものです。これらの中核症状のために、周囲で起こっている現実を正しく認識することができなくなります。本人が元々持っている性格、環境、人間関係など様々な要因が絡み合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってきます。これらを周辺症状と呼ぶことがあります。
 中核症状
 認知症は、脳の器質的障害が原因で起こる認知機能障害であり、その代表的な症状はもの忘れなどの記憶障害です。しかし、認知症の方に見られるもの忘れは、単にもの忘れにとどまらず、判断力の障害や見当識の障害などが現れるようになります。私たちが物事を判断する時には、多くの場合、記憶を頼りにすることになります。過去に経験した出来事と現在起こっている問題を照らし合わせ、過去の経験を生かして判断していくのです。認知症の方に判断の障害が起こるのは、過去の記憶を呼び起こして現在の問題と対比することが難しくなるためと考えられます。この他にも、手順が分からなくなる実行機能の障害が起こります。例えば、料理をする時に、野菜を洗ったり包丁で切ったりすることなど1つずつの作業はできますが、その野菜をどのようにするのか、あるいはそれを使って何を作るのかという手順が分からなくなるのです。私たちは日常生活を行っていくうえで、時間や場所などの見当をつけながら生活しています。今だいたい何時くらいなのか、あるいはこの場所はどの辺りにあり、どのようにすれば家に帰ることができるかなど、特に意識をつけなくても分かることが多いのです。しかし、認知症の方はこれらの見当をつけることが難しくなります。これを見当識障害といいます。
 認知症の診断・治療
診断
  『認知症』は他の病気と同じ様に、早期発見・早期治療が大切です。おかしいと思ったら出来るだけ早い時期に医療機関に相談に行きましょう。『うつ病』など他の病気との鑑別を行い、早期治療を行うことで病気の進行を遅らせ、幻覚や不安、徘徊などの周辺症状を軽減する事が期待できるからです。ある程度進行してしまうと、症状の改善や進行を遅らせる事が難しくなります。また、本人や周囲の人々が認知症に対して理解を深め、今後の対応について心構えができるという意味からも早期発見・早期治療は非常に大切です。認知症を診断するためには、まず本人や家族に詳しく問診を行い、神経学的検査、CTやMRI、PETなどの脳画像診断検査を行います。専門医療機関は、老人性認知症疾患センター・もの忘れ外来・精神科・神経科・神経内科・老年科などです。
治療
  認知症の原因が実証されていない現時点では、期待できるものはきわめて少ないと言わざるを得ません。ただ、アルツハイマー型認知症をごく初期に診断した場合、アセチルコリン・エステラーゼ阻害薬、塩酸ドネペジル剤(商品名:アリセプト)といった脳代謝薬の使用で、認知症の進行を遅らせることが可能であると報告されています。血管性認知症の場合、健常な脳が残されているケースもあることから、積極的なリハビリが効果を上げることがあります。血管性認知症の初期によくみられる感情失禁や抑うつ症状には少量の抗うつ薬や脳代謝賦活剤が使われます。
 認知症の予防について
発生のリスクを少なくする。
  認知症の約2割を占める脳血管性認知症の予防には、高血圧や高脂血症、肥満などの対策がとても有効です。また、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症でも、運動をはじめとする生活習慣病対策が発症のリスクを減らす(発症を遅らせる)ことが示されています。特に、楽しく運動することは、脳のアルツハイマー病変を弱めたり、記憶を司る海馬の働きを高めたりすることが示されています。認知症の発症を完全に防ぐことは困難ですが、生活習慣(運動や食事)に気を配ることで、発症や進行を遅らせることが期待されます。
脳の活性化を図る
  脳の活性化には、いろいろな方法がありますが、大切なことは楽しく行うことです。仲間と一緒に昔の遊びや仕事などを語る回想法、音読や計算などの学習、音楽や絵画などの趣味活動を通じ、仲間と楽しく過ごすなかで、役割を演じ、前向きに生きる意欲が湧いてきます。ただ、本人が嫌がるのに強要するのは本人のストレスや自信喪失につながり、逆効果の場合も少なくありません。
 おわりに
 認知症の人が記憶障害や認知障害から不安に陥り、その結果周りの人との関係が損なわれ、家族が疲れ切って共倒れしてしまうことも少なくありません。しかし、周囲の理解と気遣いがあれば穏やかに暮らしていくことは可能です。そのためには、認知症の正しい理解が必要です。だれもが認知症についての正しい知識をもち、認知症の人や家族を支える手だてを知っていれば「尊厳ある暮らし」をみんなで守ることができます。
◇   ◇   ◇
<参考文献>
認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント    協同医書出版社
認知症ケアの基礎                   日本認知症ケア学会
キャラバン・メイト養成テキスト(2006年度版)    地域ケア政策ネットワーク
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